世界の大都市で最も多い料理店は?
おそらく中華料理だろう。アメリカの田舎町に旅しても、探せば中華もどきのレストランが見つかる。中国人が世界中に散らばっていることの裏返しでもあろう。
2位はイタリア料理ではないだろうか。純粋なイタリアンでなくとも、ピザやパスタを食べさせる店が、各国の街に存在する。麺類を食すアジアならなおさらだ。
世界チェーンのホテルが勢ぞろいするバンコクもまた、イタリアンの水準は高い。人気と実力の点で、3本の指に入るのがフォー・シーズンズ・ホテルにあるビスコッティである。
イタリアンが愛されるのは、フレンチほど様式にうるさくないからだろう。フレンチは、前菜から主菜、デザートにワインという不動の方程式がある。イタリアンも、アンティパスト(前菜)、パスタなどのプリモ・ピアット、主菜に当たるセコンド・ピアット、最後にドルチェという流れはあるが、前菜はとばしてもいいし、パスタばかりでも許してもらえそうな気軽さがある。
日本の若い女性は、フランスよりイタリアへの旅を好む。ファッションもあるだろうが、イタリア料理の方がわかりやすいおいしさだからだろう。肩もこらない。
ビスコッティも、メニューを見れば、かつて知ったる料理が並んでいる。
ピザ、パスタ、ミネストローネ……イタリア本国では、これらの料理は食べる店が分かれているし、店によって出てくる皿も異なる。だが、大雑把に一括りにしても違和感はない。
こういうところでは奇をてらわない方がいい。王道で行くことにした。
前菜は子牛のカルパッチョ(470バーツ、1バーツ=2.6円として約1,220円)。子牛とオリーブオイルの質が良ければ、絶対に失敗はない。ナメコが添えてあった。普通はマッシュルームだが、悪くない。
パスタはやめた。面白みに欠けるからだ。ガンバス海老のリゾット(620バーツ)。これも正解だった。おいしいリゾットは、本格イタリアンでしか食べられない。大基本はアルデンテ。これ以上でも、これ以下でもないというジャストの火通しだった。これで半分以上は合格したようなもの。
ポルチーニや野菜の入ったダシは旨味がたっぷり。こってりと入ったパルミジャーノ・レッジャーノが醸す濃厚なコク。旨味と、塩っからさと、甘み。トロリとしたスープの中で、歯ごたえのある米が存在を主張している。絶妙のバランス。簡素だが、奥が深い。
上に載っているのは、パリパリになったガンバス海老。昆布を焼いたようなヨード香を放っている。最初はそのままでクリスピー感を味わい、次にリゾットに沈めて、味も香りも食感も、すべてが混然一体となった複雑な風味を楽しんだ。リゾット、チャーハン、炊き込みご飯。お米を媒介にした料理を考え出した料理人たちは本当に偉い。
イタリアンの流儀からいえば、最後は肉料理だが、タイは海産物の国。マグロのステーキ(750バーツ)に挑戦した。
これも正しかった。表面にナッツがまぶしてあり香ばしい。大ぶりのマグロの塊にきれいに火を入れている。中はピンク色。柔らかく、ジューシー。マグロは火通しが難しい。入れすぎると硬くなるし、足りないと生臭くなる。これは絶妙だった。動物の肉を食べるようなヴォリューム感と味の太さがあった。
1975年のシャトー・レオヴィル・ラスカーズを合わせたのだが、魚であることを感じさせない。まさにステーキ。オリーブオイルで調理しているため、赤ワインでも違和感がなかった。マグロは元々、赤い肉だから、うまく調理すれば赤ワインと合う。
イタリアンはやはり万人受けする料理だ。火通しと素材の良さで勝負する。フレンチより和食に近いかもしれない。
それにしても、バンコクでここまできちんとしたイタリアンが食べられるとは思わなかった。イタリアンは懐の深い料理なのだ。
| プロフィール |
|
山本昭彦(やまもと・あきひこ)
1961年、山口県生まれ。ジャーナリスト。90年代初頭、パリの某3つ星レストラン(今は2つ星)で飲んだブルゴーニュのジヴリー86年で赤ワインのうまさに目覚める。フランスを中心に各国のワイナリーとレストランを訪ね歩いて、ワインと食のおいしい関係を探っている。星つきレストランを訪れるためなら、ホテルの星の数を削るのもいとわない。シャンパーニュ騎士団オフィシエ、ボルドー・ボンタン騎士団シュヴァリエ。著書に「死ぬまでに飲みたい30本のシャンパン」(講談社+α新書)。
|
 |
 |
山本昭彦氏の新刊が出ました!
 「おうち飲みワイン100本勝負」 朝日新書 価格:735円(本体価格700円)
→ご購入はこちら
|
|
Copyright© Gurunavi, Inc. All rights reserved.
|